らぶらぶトゥギャザー









「うーん大好きだよ」
「優しいなぁお兄さん日本のこと好きになっちゃいそう」
「っていうかもう愛してるっ」

 フランスさんは明るい笑顔で軽々と仰います。
大好き、果てには愛してるなど、私にはとても言えません。だってそのようなこと、軽く言うものではないでしょう?
恥ずかしくて私にはとても口に出来ませんとも。それが…本当に大好きな方にならそれこそ。
煌びやかなあの人にそんな事を言われる度、私は「何言ってらっしゃるんですか」と呆れたように言いながら、真っ赤になっているだろう己の顔が恥ずかしくてたまりません。
知っていますか?言葉は劇薬になるということを。
あなたが冗談で口にする言葉に、私の心臓は早鐘を打つのです。
ストレートな言葉など、言い回しの回りくどい私には耳が塞ぎたくなるものなのですよ。

「日本大好きー」
「そんなにそのゲーム気に入られましたか」
 私が新作ゲームを真っ先に届けた先はフランスさんでした。
他国へ向けての自信が何かとない私が、珍しく胸を張れるオタク文化。
それを喜色満面で受け入れて下さるフランスさん。
それは相手を好ましく思い、対外関係の苦手な私をふんわりと微笑ませてくださる時間です。
好みの範囲が広いフランスさんはどんなものにも好奇心をお持ちになり、いつも次は次は、と嬉しそうに催促して下さいます。
フランスさんの華やかな文化、お洒落なイメージに憧れをいだいていた私からすれば驚きでしたが、求められれば嬉しいものです。会う回数だって趣味を同じくしてからというもの格段に増えました。いわゆる文化交流です。

 でも何故でしょうね。フランスさんがお礼とセットで「大好き」と口にしてくれる度、胸がツキンと痛くなるのです。
他の国に「いつの間に仲良くなったんだ」と言われれば少し誇らしく、しかし文化交流のためだとわかると納得した顔をされるのも、少し淋しく思います。
誇らしくも、そうでなくては仲良くなれはしないと思われているようで…。
被害妄想ですよね。わかっております。
フランスさんの軽薄なところは眉を顰めたくなりますが、私はこの方に憧れを抱いてやまないのです。

そう言うと他の国の方々には驚かれてしまいますが、国本体の影響だけでなく、私はこの方をとても綺麗だと思っています。

「日本のゲームは数も多いしね!ディティールも凝ってるし」
「今回のは私のところでも期待度が高いんですよ」
「じゃあ一緒にやっちゃわない」

 なんて飛ばされるウインクにハートマークが見えるあたり、私はもうメロメロなのです。
こんな私が恋するなんて自分でも末期だ!どうしようもない!と思うのですが、でもでも、ドキドキが止まることを知りません。

「一緒に?構いませんが」
「じゃあ週末は二人っきりだね」

 特別な相手に使うような言葉を楽しげに使うこの人は、私をここまで振り回していることなんてわかっていらっしゃらないんでしょう。

「日本を独り占め〜」
「ふふ」

 恥ずかしくて落ち着かない私は、目を逸らした。
 フランスさんが私の肩を組んできたからだ。鼻歌でも歌うように節をつけて、いとも簡単に引き寄せられた体。
近づく顔も体温も甘い匂いもどれも頭が爆発しそうで遠ざかったのに、逸らした先で目に入るフランスさんの大きな手!
肩に乗せられているそれの存在感が、頭をいっぱいにする。

「…どうしたの?」
「いえなんでもありません」

 体がガチガチに固まり、今迂闊に話せば私がこの方を好きなことくらい簡単にばれてしまいそうです。
 嫌われたくありません。まだお友達でいたいのです。
 私はそうして、早く離れてくれないかと思いながら必死でひきつった笑顔を作ります。

「…ふう」
フランスさんが私の顔を見て、困ったような溜め息をつきました。
何か粗相をしたかと慌てましたが、それを読み取ったフランスさんは私に先んじて「違う違う!」と笑いました。

「やっぱこれくらいじゃ落ちてくれないか」
「え?」
「ん〜?なんでもない」

鼻歌は優しい異国の調べ。ああやはりここは心地いいな、と私は手を離してくれないフランスさんに観念して、肩にぽんと体重を預けました。


end

10.3.31

だから心臓に悪いってば、ねぇ。





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