ストッパー






「日本、日本泣いてもいいある」


ふわりと私を抱き締める、ほんのわずかばかり大きい体躯。
しかししなやかに細い腕は肩、首、反対の肩と回りまだ余る。

同じようにこの人は足も長い。
踊りを踊る姿も、伝 統の拳法で体を動かしている時もカモシカのようだと思ったと、今全く関係無い事をぼんやり思う。
結わかれた長い髪から薫るのは墨の匂い。昔と変わらない匂い。他にも色々混ざっているが、
己に識別出来たのは最早これだけだった。
甦る思い出。抱き締めてくれる体はもっともっと大きかった。
いえ、私が変わってしまったのだ。
もうあの頃には戻れない。
この人の好きな、無垢な私はもうどこにもいない。
大人しいだけで兄の後 ろは歩けない、そうなった今は真っ白でない自分を良しとも思い、
しかしこんな自分を知ったら兄は私を認めないだろう。
もう好いてはくれないだろう。


「泣いても、我はお前を嫌わないある」


ああそんな泣きそうな声で言わないで。
罪悪感と優越感が綯い交ぜになって変に笑ってしまうではないか。
嘘が付けないお兄様。愛しくてしょうがない。
可愛いものが好きな兄上。可愛くない私には見向きもしな いでしょう?


「嫌です、泣きません」

「お前が大変なのは知っているある。だから我のところでくらい…」

「なにをっ、言ってるんですか」

「我では頼りにならないある?」


強く抱き締める、腕。
私の硬い髪を掻き分ける繊細な 指。
二人でいる時だけ、彼は私を甘やかそうとする。それはもう躍起なくらいに。
何を考えているのですか?
国々と語り合う私が不安ですか?
でもこの時は、この人だって私のもの。


「そういうわけではないのです。しかし」

「どんなお前も、我は心 から愛せるある」


すいと中国さんの顔を見ないように肩口に顔を埋めた。
口付けの予感から逃げたが、この人は私がそうしたこともわ かっていないのだろうな…。


「中国さん?」

「なんでも、ないある…」


若干落胆した声に笑いがこみ上げ、 悪戯するように首筋に口付けた。
途端熱を持ち驚きに力が篭る、素直な人。


「に、日本?!」


この人は変わらない。 この人だけは変わらない。
この人が変わるのを、私は止めていけるだろうか。


「大好きですよ、にぃに」


微笑む私は、可愛いあなたの弟に見えていますか?





09.12.14

私はあなたを行かせやしない






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