ゆらりゆらオレンジ






努力してもしなくても、結果は一緒だった。
それは今になって思う結果論だ。



強引に連れ出され、見ることを強制された世界。戸惑いと恐れしか生まぬほど余りに大きなものだった。


初めて対等に話せたのはどこか不器用な 同じ島国の方で、しかし今はそれも過去となっている。


過去は清算すべきものであり、今の私が引きずるべきでないと理解している。


情を捨てられねば待つのは悲惨な末路だ。


白兵戦となる戦地に立つ足は予想していたよりもしっかりしていて、自分でも妙に驚いた。







「あれーどうしたの日本」


気の抜けるような声は、ほんわりと笑うイタリア君。その向こうには厳しい顔をしたドイツさん。・・・ああ、いつもと同じだ。
これから戦いの場に赴くなんて嘘の様に。
大丈夫、私にだってこのように居場所があるのです。一人になんてならないし、戦う事だって出来るのです。


「眩しいですね」


私の呟きに、揃って夕日を見上げる。こんなに綺麗な色――明日はきっと晴れだろう。
空から降り注ぐ光は色の氾濫とも言える位で、世界がただその色に染まる。




彼が、「忘れるな」、と。

そう言うみたいに。




今はもうそんなこと言ってくれる筈が無いのに。
そう言って欲しいというのは私の願望でしかなく、だからただこの色が悲しい。

「泣いてどうする」
「泣いてなど、いませんよ?」

気が付いたら近くに来ていたドイツさんの影が視界に落ちる。

泣くわけがない。
泣 いてたまるものか。


「綺麗なオレンジ色だねー」
「…え」
「どうした?」


オレンジ色。


これは柑子色?


世界ではこの色をそう表して?



「…そうですか…」

囚われた思考は早く忘れよう。こ んなショックを受けるなんて。
この鮮やかな夕日の色が、あの人の淹れてくれた紅茶の色にしか見えないなんて。


忘れてしまえ。

「大丈夫だ」と不安がるこの手を握ってくれた温かさなど。



「さぁ行きましょう」

手に伝わったのは、 柄を握る汗の感触と生温い武器の温度。


end
09.8.4

だって今 この手を握ってくれるわけ ないのだから




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