青の季節











キョンは間違いなくハルヒコを友達だと思っていた。

自分勝手に振り回され、理不尽なことを言われても結局は許してしまう。

いつの間にか信頼してキョンにとってハルヒコは指折りの『自分に近しい人間』になっていた。

ガードだって緩む。時間を重ねる毎に信頼感は増す。

ただハルヒコはきっと何かを持て余していて、だからこんなことになったんだ。

悲しい、とは不思議に思わなかった。でもこの関係を今度はなんて呼んだらいいのだろう?








ハルヒコとキョンの距離は近かった。

それは物理的な意味でもある。ハルヒコにとってキョンの傍は居心地良かった。

キョンといれば互いに話さなくても楽しい空間だったし、時折抱きつけばすごく落ち着いた。キョンの匂いだって気がつけば覚えてしまった。

こんなに可愛いキョンを、みんなも好きに違いない。そう思ったら少し悲しくなった。

キョンは俺を俺と同じくらい好きなのかな?

聞いたら負けだと思った。「キョンみたいな奴に構うのは俺だけでいいんだよ!ありがたいと思え!」嘘。いや本当。キョンを構うのは俺だけでいい。












昼休み、購買にパンを買いに行った。近道だからと外の非常階段を通って。いっぱい買いたかったから嫌がるキョンも連れて行った。
だって放っておいたら谷口や国木田と弁当を食べるんだろ?
でもぶつくさ言いながらキョンもついて来てくれた。
「そんなに走らんでもパンは逃げないぞ」
「逃げなくても買われるだろ馬鹿!」

無意識に握ったキョンの手は温かかった。それに気付いて、立ち止まったらキョンがハルヒコの背中にぶつかった。
ハルヒコの方が少し背が高いので、首と後頭部の境目に顔を突っ込むような。
「なんだ急に・・・」
ハルヒコはキョンの声より、周りの音に耳を澄ませていた。
正確には「周りがとても静かな事に気付いていた」。
昼休みなのに隔離されたみたいに静かで、まるで世界に二人しかいないみたい。
それがとても嬉しかった。

「なぁキョンちゅーしようぜ?」
「なっ・・・」
「したことないだろ?」
「あっ、ある!」
キョンが思い出したのはハルヒコと閉じ込められた閉鎖空間での記憶だった。
青い光と、やたら近かったハルヒコとの距離。
でもハルヒコはあの時の事を忘れている。
「あるから・・・なんだってんだよ」
「ふうん・・・それはそれでムカつく」
え、と思う前に噛み付くようにキスされた。冷えた壁に体を押し付けられている。
押さえつけられ痛い両手首と、ぶつかり合うように繰り返しキスされているその2カ所にしか意識がいかない。
唇と唇。唇と歯。歯と舌。舌と歯茎。舌と舌。触れ合うというよりもっと乱暴に接触され、熱を感じる。
嘘だ有り得ないなんだこれ。
頭で否定しても感触が、温度が、耳が捉えるハルヒコの荒い息遣いがこれは現実なんだと思い知らせてきた。意識を持っていかれている間に深くなる。

「キョンのくせに生意気・・・っ」
なんつうエロイ声・・・。
口蓋を舐め上げられて下半身にきた。やめて欲しいのに体の力が抜ける。
不意にキョンの左手が自由になった。かと思ったら、左手首を押さえつけていた手で頭を抱えられ、ハルヒコに引き寄せられる。もっと深く。もっと奥まで。
あの時の触れるだけのものとは比べ物にならない。
「っは・・・んっ・・・」

ハルヒコは今までにない高揚感を感じていた。
なんだこれ。気持ちいい。
中学の時は女の子と手当り次第に付き合った。告白されれば一通り試す。でも楽しくない。
どこに出掛けても手を繋いでも何をしても。だから一つも続けなかった。
キョンをそんな対象として見ていたわけじゃない。でも誰よりも傍にいたいと思っていた。

一番近いのって恋人なのかな。

キスしながらそんなことを思った。

くちゅり、と二人のキスの合間の唾液の絡む音さえ愛しい。
恋人になればキョンから「傍にいたい」って言ってくれるだろうか。
想像して嬉しくなった。だからもっと深く息を絡めた。
気持ちより先に体が動く。味わうように口付ける。息継ぎを挟みながら何度も、何度も。
いつものキョンの匂いがして、胸が高鳴った。心臓の音が体中に響いている。

キョンは目を開けたとき、ここが非常階段なのだと思い出した。
しかも昼休み。いつ誰が来るかわからないと言うのに!
「ハル・・・ヒコッ」
ハルヒコがゆっくり目を開けた。近すぎてピントが合わない。
だけどハルヒコは射抜くようにキョンを見ていた。
わからない。キョンの頭はまだ事態を飲み込んでいなかった。
友達なのに。なんでこいつは俺にキスしているんだろう?
「なんだよ」
ハルヒコの熱を孕んだ声に背筋を撫でられた。
思わず息を呑む。よくわからない驚きで動く事が出来ない。
それを好機と思ったのか、にんまり笑ったハルヒコがまた近付いてくる。しかし寸前で止まった。
一呼吸置いて、腰を少し落とす。下からキョンを見上げるように。
ハルヒコは息が俺の唇に当たる距離で囁いた。

「もっと、って言えよ」

俺の息は上がっているのに。なんて勝手なんだこいつは。
近すぎて、逃げる隙も冷静になる時間も与えられない。

俺もハルヒコも、年齢故の熱に浮かされているんだ。まるで病気にかかっているみたいに。
「も、」
口を開いた瞬間、ハルヒコはまた噛み付くようなキスをして来た。
やっぱり只ひたすらに熱い。
「んあ・・・っ」
「キョン・・・キョンっ・・・!」
キス。それだけ。
なのにおかしい。体の中を血液が駆け巡るような変な衝動。
二人は衝動のままに貪った。相手の求めるように。相手に応えるように。




そうして予鈴がなるまで、俺達は繰り返した。
それしか行動はないように、何度も何度も。









END






09.2.8

頭より先に体が動いた。







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