昼休み
昼休み。彼が部室を訪れた。極めて珍しいケース。
僅かに心拍数を上昇させた彼は勢い良くドアを閉め、そこで初めて私の存在に気付いた様であった。瞳孔が0,2mm拡大する。
「長門・・・」
私は昼休み、部室にいることが多い。以前もその時彼と遭遇したこともあるが、彼はその事を失念していたらしい。
一瞬言葉を発しようしているように見えたが何の言語も発する事無くパイプ椅子に腰掛けた。
私は膝の上で開いていた本を閉じ彼の横顔を見る。しかし彼はその視線を感知しない。視覚化出来ない何かを見つめているようだった。
彼の思考を占める要素を考える。
朝から今この時間までにかけて他の要素に動きが無いことから、涼宮ハルヒ関係とは考えにくい。そうなると一つの事象しか浮かぶことはなかった。
彼がこの部屋を訪れる少し前にこの室内の窓から見えた、冷たい表情で歩いていた彼と。今目の前にいる彼。前者は古泉一樹という空間限定能力者。
目の前の彼は私の視線に気付き笑顔を作る。
しかしそれは「力の無い」と表現すべきものだった。
古泉一樹と、彼。
互いに日常と様子が異なっている彼らを繋ぐものが同じだとしたら、問題の詳細は見えなくても概要はすぐに理解出来た。そう、とても簡単に。
しかし私はそれを口に出していいものか迷う。
彼らの間の感情が情報統合思念体には理解出来ない。
以前よりも感情と呼べるものが把握出来てきているし似通ったものも私の中に生まれている、
しかしそれが彼らや彼女たちの持っているものと同一のものか。把握する術を私は持っていなかった。
本を置き歩み寄る私を、彼は机につっぷしたまま不思議そうに見ていた。
そして彼の横に立ち彼に伝わるであろう声量で、言葉を発する。
「・・・蟠るものがあるなら、伝えるべき」
彼が目を見開く。彼は私が全てを知っていると思っただろうか。違う。全てを把握し動いているわけではない。
だけど、彼が表面にそれは出さずとも「悲しい」という感情を内在しているように思えた。
そして彼よりもそれを表面化していた古泉一樹も、また同じように悲しいのだと推察したから。
観察のうちに気付いた彼らの互いの感情を、まだ彼らは知らない。
だからこそ点と点は線にならず、また線になったとしても線同士が重なるには至っていないのだろう。
しかし彼らは些細な衝突や日々の会話、コミュニケーションから徐々に精神的距離が近付いていることがわかる。
時折古泉一樹は身体的距離を不意に縮め、彼に拒否を示されているが。
「わかっていたのか?俺と古泉が・・・さっき」
首を傾げた私に彼は眉を下げて笑う。
「・・・喧嘩、したんだ」
そう呟く彼は既に顔面の筋肉の緊張が緩んでいた。
きっともう、大丈夫。
放課後には元通りであろう彼ら。そしてそこにいるであろう彼女と、彼女を思う。
その時ほうっと温かいものが訪れるのは、きっと気のせいではないだろう。
End
08.10.16
軌道、修正。微細調整。修復・発展は彼ら次第。
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