■ 午後の謂われ無い言い分■




 夕方の光にキョンが目を覚まして、最初に目に入ったのは古泉の寝顔だった。
「おわっ!」
 近すぎる距離に反射的に身体を遠ざけようとした。が、出来ない。
そろそろと振り返ればがっしりと古泉の腕に抱き締められているのがわかった。ちょっと苦しい。
 目に入った時計はやはり夕暮れ時を示している。だとしたらものすごい寝坊だ。
夜はその・・・古泉に、色々とされて、そのまま眠ってしまった気がする。それから今までずっと眠っていたのだろうか。
だとしたら何時間睡眠だろう。少なくとも半日以上眠っていた計算になってしまう、さすがに寝過ぎだ。
「古泉。おい古泉、起きろよ」
 なんだか時間が勿体無い気がして古泉を起こす。古泉はうっすらと目を開けると
「どうしました・・・?お腹空いたんですか?」
 とにっこり笑って頭を撫でてきた。
「い、いや・・・腹は減ってないな」
 手から逃れようと頭をずらしながら答えるキョン。古泉は目を丸くしたてキョンの頭を見る。
「戻ったんですか?!」
「何がだ」
少し残念ですね・・・と呟く古泉に説明させて、キョンは聞けば良かったのか聞かなければ良かったのか考えた。
とりあえず頭を抱えて苦悶した。古泉はあろう事かキョンが猫化して、古泉に甘えまくったと言うのだ。
それが本当なら悶絶ものだ。
 だけどそうだ、古泉の事だ。自分を困らせようと下らない嘘をついているのかもしれない。いやそうに違いない。
「いい加減な嘘はやめろ、下らん」
 ここで古泉は「ばれちゃいましたか」と肩を竦めて嘘を認めるだろうとキョンは思っていた。
だが古泉は手探りで携帯電話を手にし、差し出してくる。
「なんだ」
「これを見てください」
 操作をしてから渡された携帯の画面を見ると、そこにはキョンノ姿が映っていた。

“キョンくーん。こっちですよー”
“にゃ?”
“これはね、携帯電話ですよ。あ、じゃれないでくださいね”
“にー”
“いいこですねー”

 映像が終わる前にキョンは携帯の電源を切る。画面がブラックアウトした携帯を古泉に押し付けた。
「な ん だ こ れ は !!」
「だからさっきまでの キ ョ ン く ん です!」
 なんか俺に猫耳が付いていた気がするが気のせいだ。しかも撮られた覚えの無い映像で、しかも猫語で、どんなカオスだ。
誰かこれは古泉の嘘だと言ってくれ。もしくは夢だ。夢オチだ。
「嘘じゃありませんからねっ」
 物腰柔らかで人当たりの良い(一般的には)古泉の語調が珍しく荒い。
「怒ってるのか」
「まあ色々あったので」
 溜め息をつく古泉。
 自分が何かしてしまったのかとキョンは不安になる。
「あーその・・・言ってみろ」
 と古泉に尋ねた。古泉は珍しく皮肉めいた笑みを口端にうかべている。
「それはもう・・・大変でしたよ。撫でれば嬉しそうに笑うし、猫耳はピクピク動くし、撫でている途中で人の手をペロペロ舐める、徐々に甘噛みにまで移行して、寝たかと思えば服にしがみつき、どこに行くにも付いてきて背中にくっついたり、顔まで舐めてきたと思えばじゃれついてきたり、なんかもう時間が経つ程甘えてきて」
「す・・・すまん」
 己のあまりの暴挙にキョンは穴を掘って埋まりたくなった。
「誘ってんですか!」
「それは違うだろ!」
 反射的にツッコミをいれるあたり、日頃の苦労人っぷりが伺える。
 キョンは嫌な考えが浮かんで怖々確認をとった。
「おいまさか・・・お前その状態の俺に手を出しちゃいないだろうな」
 身体に痛む箇所などは無いが、こいつならやりかねない。
「していませんよ。さすがに罪悪感があるかと思いまして」
「そうか」
 意外に紳士的な答えにほっと息をつく。そうだよな、さすが古泉でも猫に欲情しないよな。
こいつに対する俺の中の古泉は変態ぽいという認識をそろそろ改めようか。
「キスしようとしたら引っ掻かれて逃げられちゃいましたしね」
 前言撤回!改める必要なし!そんなこと爽やかに笑って言うな!なに猫(というか猫になった俺)にまで手を出そうとしてんだ!
「あまりに可愛かったからです」
「真顔で言うな」
 これ以上言っても無駄だ、とキョンは肩を落とした。
「謝っても警戒して構ってくれなくなったので、ベッドで眠ったところを起こさないように抱き締め、僕も寝させていただきました」
 それでさっきの状況か。
「わかった。とりあえずさっきの動画を消せ」
「それは了承しかねます。写真も駄目ですね」
「おい何撮ってんだ」
 誰かに見られたらそれこそ生き恥だ!
 携帯を古泉から取り上げようと手を伸ばす。古泉にその手を取られ、数秒の間にキョンは古泉を見上げていた。
ついでに言えば背中はベッドだ。起きてからずっとベッドに寝転がったままだった。
「僕がどれだけ我慢したか、理解していただけましたよね」
 向けられた笑顔が怖い。そうだった、確か怒ってるんだっけ、こいつ。
「こ、古泉・・・?」
「とりあえず」
 にこりと古泉が微笑む。
「猫プレイにでも付き合ってもらいましょうか」
 語尾にハートマークでも付きそうな声音で告げられた言葉に、キョンは血の気が引くのを感じるのだった。




《完》



07.11.24

まずは逃げ道確保!ていうか、え、ほんとに?



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