睡眠観察及び保護







その日の部室は沈黙に包まれていた。
僕は音を立てぬよう鞄をゆっくりと開きペンケースとノートを取り出す。
朝比奈さんも気をつけているようで低い位置からやかんのお湯をポットに注ぎ、
温かいお茶をそうっと各自の前に置いた。
その表情は慈しむようにしかしどこか楽しそうに笑っている。目があって僕も微笑んだ。
長門さんが本を読む様子はいつもと変わらない。開け放した窓から優しい風が吹く。



何度目かわからない視線を彼に送るとくすぐったい気持ちになった。
体の奥から枯れない泉のようにこんこんと幸福感が湧いているのを感じる。
今僕は心の底から微笑んでいるのだろう。



時間を置かず廊下から慌ただしい足音が聞こえた。
あ、と思う間もなく勢いよく開かれるドア。

「みんな揃ってるー?!今日はねっ…」

す、と唇に人差し指を当てる僕と朝比奈さんに反射的に身を固め目を丸くする涼宮さん。
抑え目な声で挨拶をする。
「こんにちは、涼宮さん」
「どうしたの、みんな」
つられて小さな声で話しながらも状況把握の為にきょろきょろと部室を見回している。
その視線が彼に向いた。
「キョン・・・寝てるの?」
「はい」
答えればふふと笑う朝比奈さんの声。
目線を上げれば長門さんもこちらを見ていた。


机に突っ伏して寝る彼の、上下する肩。
規則正しい寝息。
少し口元の緩んだ、見ていると微笑ましい気持ちになる寝顔。


僕は長門さん、彼に続き部室に来たようでその時にはもう熟睡していた。
とりあえず悪夢を見ているわけではなさそうだ。
少なくとも眉間に皺は寄っていない。

「まったく…団員に気を遣わせるなんて」
呆れたような口調。しかし裏腹にその表情は柔らかい。
足音を立てずに彼の後ろを通り過ぎ、団長席に鞄を置く。
「教室でもいつも寝てるのよ。特に数学の時間」
「おやそうですか」
なら今度教えてあげたいな。
なんて思ったが本当に彼に言ったら「結構だ」と一蹴されそうだ。


「今お茶いれますね」
「そうね、お願い」



彼は本当に皆に愛されてる。
・・・知っているのだろうか。
僕だって。彼女たちだって。こんなにあなたを慈しんでいること。
あなたがいるだけでこんなに優しくなれること。
僕があなたを守りたいと思っていること。
こんな安らかな寝顔を守れているなら・・・日夜戦っているのも悪くないかもしれない。
今このとき、そう思っていることだって。


「寝言とか言わないかしら」
「あ、それはちょっと聞いてみたいですね」


それに反応するかのように、彼が「うぅん・・・」と小さく呻いた。








End


07.8.16
この空間が好きで あなたがいてみんながいて









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