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バニラ











「アイスクリーム、食べたくない?」








家でごろごろしていたところを連れ出されて海沿いの公園を少し歩いた。
“風があるから気持ち良さそう”なんて言うベルさんは着くなり木陰のベンチで昼寝をして。
俺は暇だったからその横で図書館で借りた夏休みの宿題の本を読んでいた。
ベルさんが寝ていたのは30分くらいだっただろうか。
目を覚ましてしばらくぼーっとしたあと“ちょっと待ってて”と一言残して
どこかに行き、また戻ってきた。しかもとても楽しそうな企み笑いで。
そして冒頭の言葉、だ。
何を突然、と思いながら一応答える。
「そうですね、暑いから・・・」
「はい」
そう笑ったベルさんの手にはコーンに乗ったバニラアイス。
シシ、という笑い方は少し意地悪そうだったけど俺はとにかく面食らってしまった。
「ベルさん、これ・・・」
「食べたそうだから買ってきてあげたんだけど?」
食べたそう、だなんていつ気づいたんだろう。
「さっきワゴンの前を通った時に一瞬立ち止まってた」
ああ、あの時。
確かに俺はあのワゴンの前を通った時“アイスかぁ、いいな”と思ったのだ。
でも足早に歩くこの人に置いていかれそうな気がして(実際もう少し距離が離されていた)小走りに通り過ぎていた。
「俺に、ですか?」
「そうに決まってるじゃん。食べないの?」
夏の日差しを浴びて白く光るアイスクリーム。
こんもりとした丸い山のてっぺんからつう、と伸びる白い筋。
この日差しの強さではアイスが溶けるのも早いだろう。
「・・・いただきます」
「そうそ」
そうしてベルさんはまたシシ、と笑った。
俺は両手で握ったアイスをまず一舐め。それから豪快にはむ、とてっぺんに食いついた。
口の中が一気に冷たくなり、さっきまでのうだるような暑さから開放された気分になる。
「嬉しそうに食べるねー」
「はい。美味しいです。でもなんでわかったんですか?」
俺がアイス食べたいと思っていたこと。そう訪ねると口から出てくるのはお決まりの台詞。
「だって俺王子だもん」
いつものこの人はどんなことだって、この一言で片付ける。
だから今日はちょっとした抵抗。
「王子というより魔法使いじゃないですか?」
俺の心を読んだんだから。
しかしこの人は怯まない。
「何言ってんのー王子だよ」





「だって王子はいつだって姫のこと見てんだから」



「ねぇ綱吉?」




そんな恥ずかしいこと言いながら、いつものように笑う。
やめて欲しい・・・心臓がもたない、これじゃあ。
「アイス溶けてるよ?」
「えっ?あっ、あ!」
慌ててる俺の手からアイスを奪って、ぺろりと舐める。
そして「ん、美味しい」とまた笑った。





じりじりとアイスのように
俺の心まで溶かされている気がしたのに
何故かそれがくすぐったいうえ嬉しいのは
それもまたこの自分勝手で我が侭な王子様のせいなのだろうか。



・・・なんて。





End
06.8.10


大好きだから、やめられない。この甘さも、嬉しそうに笑う顔も。










加筆修正 8.26




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