『愛しいのは、』
触れたい、と思った時には手を伸ばしていた。
「んあ゛?」
ばちっ。
聞き慣れた低めの声に反射的に顔を上げたら思いきり目が合った。
怪訝そうな表情に、ポカンとしたまま視線を追う。
その先がスクアーロの髪を握っている自分の手のひらだと気づき、ツナは真っ赤になって手を離した。
「す、すいません!」
慌てて手から離した髪は動揺したツナとは裏腹に
ふわ、ともすっ、とも言い難い優しさでスクアーロの背に落ちていく。
滑らかでとても高級な銀糸か何かのようだとツナは思った。
ツナはスクアーロの髪がとても好きだ。
ツナは自分の癖毛が昔から大嫌いだった。子供の頃よく周りの子にからかわれたし、
リボーンにまで「ツナの髪質って地球人のそれじゃねーよな」と言われる始末だし。
小さい頃母さんに「なんで俺の髪はこんななの?」と聞いたら
「あら素敵じゃない。綺麗な茶色で触ればふわふわよ?」とにっこり返された。
小さいツナはそんな答えが欲しかったわけじゃなくその後一日拗ねていた覚えがある。
だからスクアーロに出会って、その綺麗な髪をとても羨ましく思ったのだ。
「う゛ぉい、いつまで見てんだ」
「え?あ、あの」
「別に見てたきゃずっと見てていいけどよ」
そして不器用なこの人が、ツナはとても好きだ。
最初はただ怖い人だと思っていたけど(だって初対面で殺されるところだったし)、
話してみるうちに人のことを気遣える優しい人だとわかってきた。
出会ってすぐの頃にはわからなかったけど・・・当たり前か。あの頃は敵同士だったのだから。
「スクアーロさんの髪、俺好きだな」
長くて綺麗で。呟きながらまた触れる。
「そうか?」
「はい、羨ましいです」
しなやかで真っ直ぐで光に当てれば鋼のような輝きを帯びる。
常に前しか見ていないこの人にとても似ている気がした。
「俺はお前の髪もいいと思うぜぇ?」
「そうですか?」
「へこたれなさそーだろ、ちょっとやそっとじゃ」
ぽふっと頭に乗せられる手。上から聞こえる抑えた笑い声。
「もう、笑わないでくださいよ」
「悪ぃ悪ぃ。だけど長い髪が好きだなんて俺の前以外で言うんじゃねぇぞぉ?」
「なんでですか?」
「守護者連中が聞いた日には全員髪切らなくなるぜ?」
「・・・それは嫌です」
一瞬想像したことツナはを後悔した。なんだその不気味な集団は。
「大体俺、長い髪が好きなんて言いましたっけ?」
「違うのかよ」
「違いますよ。スクアーロさんの髪が好きなんです」
スクアーロは思わず固まった。
・・・なんだこの殺し文句は。こんなこと誰にでも言ってるんじゃねーだろーなコイツ。
恨みがましい気持ちでツナを見るが、ツナは理由がわからないらしくちょこんと首を傾げた。
これも多分無意識だ。天然ほど怖いものはないな、とスクアーロは思った。
強くなることを目標・・・というより目的に生きてきたスクアーロにとって、
誰かとこんな風に触れ合うのは初めてて正直この頃自分でも戸惑いだらけなのだ。
ザンザスには自ら付いていった。あれは人として奴に惹かれたからだろう。だけどこの俺が・・・
「スクアーロさん?」
こんなに、コイツに触れたいと思うなんて。
抱き締めた成長途中の体は華奢で、簡単に折ってしまえそうだ。
頬に感じる感触が心地いい。こんな時に触れる、実は見た目よりずっと柔らかいツナの髪がとても好きだ。
コイツの好きな所なんて挙げたらキリがない。だから他の奴になんと言われようと気にしなければ良いのに。
「俺はこの髪好きだぜぇ」
なんなら俺がいくらでも言ってやる。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
ツナはスクアーロの顔が見れなくて抱き締められたまま俯く。
嬉しいのに、沸騰しそうな位ドキドキしていた。
小さい声しか出せなかったけど、ちゃんと聞こえたかな?
触れたいくらい愛しいのは、きっとそれが貴方だから。
end
06.9.3
触れるだけで、こんなに切なくて。
だからこそ、愛しくて。
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