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『顔が見れない、わからない』











この気持ちは何?この気持ちはいつから?
獄寺くんを見ていると、変な感じがする。俺が変になってしまう。
獄寺くんが嬉しそうにしていると、心がほんわかして。
獄寺くんが悲しそうにしていると、俺まで淋しくなる。
前みたいに自然に話せない。
近くにいると、怖くないのに緊張してしまう。
この気持ちは何?
考えているけど答えが出ない。
答えが出ないから、また考えてしまう。
今日だってほら。・・・まともに顔が見れないんだ。











ざわざわと教室が騒がしくなる。
気がつけば授業は終わっていた。
クラスメイトは席を立ち、雑談や次の授業の準備を始めている。
授業中の姿勢のままでいるのはツナだけで、慌ててシャーペンをペンケースに仕舞った。
次の授業、何だっけ・・・とぼうっとした頭のまま考えていると、
開かれたままのノートに影が落ちる。
「どうしたんですか十代目」
獄寺、くん。
条件反射で顔を上げて、ツナはまともに獄寺の顔を見てしまった。
その瞬間心臓の音がドクンと跳ね上がる。
「・・・十代目?」
固まってしまったツナに向かって獄寺は心配そうに手を伸ばす。
しかしもう少しで肩に手が触れるところでツナは我に返ったようにびくっと体を引いた。
しまった、と思いつつも動けないツナと、驚く獄寺。
行き場を失った手が空中で止まったままだ。
気まずい空気が流れる。
ツナはどうやってこの状況を切り抜けようかと必死に考えていた。
獄寺くんはただ心配してくれたのに拒絶するようなことをして・・・いや、あれは反射的な行動だったんだけど!
でも獄寺くんは傷ついたような顔をしているし・・・あぁどうしたらいいんだ!
とりあえず何か無難なことを!と、やっとのことで口を開いた。
「ご、獄寺くん。えっと、ごめんね」
やっと言えた言葉は途切れ途切れで情けなかったけど、獄寺くんは顔を上げて少し笑ってくれて。
でもその顔はツナにはなんだか悲しそうに見えた。不安なのに無理して笑っている、ような。そんな淋しい笑顔しないで欲しい。
ツナはそう考えた途端悲しいような淋しいような不思議な感じがした。
やっぱり傷つけてしまったかな、ともう一回謝ろうとしたとき獄寺が話し出す。
「いえ、何でもないんです。十代目、さっきの授業のノート全部取れていなかったんじゃないかと・・・」
「え、あ・・・本当だ」
言われたとおり、開かれたままのノートにはさっきの授業の半分も写しきれていない。
最近授業中だろうとどんな時だろうと、このことを考え始めると他のことが疎かになってしまう。
心の中で渦巻く、獄寺へのよくわからない感情のことを考えるとにいつのまにか思考を持っていかれて。
さっきも考えていたらノートを写す手が止まってしまっていたのだ。
黒板は先生が消していったので今更写すことは出来ないし、だからと言ってノートをこのままにしておくわけにはいかない。
確かさっきの教科の先生はノートを近々提出させると言っていた。
「あ~・・・誰かに写させてもらうしかないか」
ため息まじりに呟くと、獄寺がすっとノートを差し出してきた。
表紙には見慣れた綺麗な字で『獄寺隼人』と。
「これ・・・」
「写すのなら俺のを使ってください。十代目に必要かもしれないと思って、今日はちゃんと写しておきました」
頭のいい獄寺は授業を真面目に受けなくても内容を理解していて、その上テストではいつも満点ばかり取っている。
だからノートしっかりを取ることなんてほとんど無い。だけど今日の授業の分だけは隅から隅まで細かく記されていた。
「授業中は物思いにふけっていたようなので・・・どうぞ、使ってください」
俺のこと、見てたの?
そんな疑問がツナの頭を過ぎった。だけどノートを受け取らないツナに獄寺がまた不安そうな顔をしたので、あわててノートを掴む。
「ありがと、獄寺くん」
だけどまだまともに獄寺の顔を見ることは出来なかった。
嬉しいのに、心臓がまだドクドクと鳴っていて。
「いえ。こんなこと、あなたの為ならどうってことないですよ」
それなのに獄寺の声はとても嬉しそうだった。
たった一言のお礼だけなのに・・・なんでそんなに嬉しそうにするんだろう。
なんで獄寺くんは俺と話すときは嬉しそうに笑うんだろう。
また頭の中がごちゃごちゃしてきて、ツナは余計に下を向いてしまう。
キーン コーン カーン コーン
チャイムが響く。気がつけばもう次の授業が始まる時間だ。
「じゃ、十代目」
獄寺が離れていく気配を感じて、ツナは顔を上げた。
ばたばたと慌ただしく席に着くクラスメイトたち。
自分も用意をしなくては、とツナは前の授業の教科書を鞄に仕舞い、次の教科を取り出した。
獄寺のノートは何故か鞄の中に仕舞い込むのが躊躇われて、机の中に。
おかしなことに、すぐ仕舞ってしまいたくないような気がしたから。
嬉しい。嬉しかったのは確かなのだ。
前の自分なら誰かにノートを貸してもらう、なんてこと絶対に無かった。
誰にも貸してもらうことなんて出来なかっただろう。
嬉しいのはそのせい・・・だけど。それだけだと思うけど。
“あなたのためならどうってことないですよ”
その言葉が頭に甦ってきて、獄寺の席のほうに目を向けた。
・・・ありがと、獄寺くん。
さっき言った言葉をもう一度背中に呼びかける。
照れくさいような感じがして、なんだかくすぐったい。
この暖かい気持ちは一体なんだろう?俺、どうしちゃったんだろうね?獄寺くん。
面と向かっては言えないから、こうして背中に問いかけた。
すると声をかけてもいないのに獄寺がくるっと振り返る。思いきり目が合って、獄寺はまた嬉しそうに笑い、手を振ってきた。
ドクン!どころじゃない。今度は耳まで心臓の音が響いてきた。
今、絶対俺の顔真っ赤になってる!
・・・なんで?!なんで獄寺くん見て、顔真っ赤にしてるんだよ!
なんで俺どきどきしてるんだよ・・・??!
ツナは頭を抱えて、机に突っ伏した。
次の授業も、きっと頭になんか入ってこない。
まったく・・・俺、どうしちゃったんだよ・・・。












その気持ちの名前がわかるのは、もう少し先のこと








end











05.3.4
ただわかるのは、また君のことで頭がいっぱいになっていることだけだった







加筆修正 05.3.6
修正・行間調整 06.4.15








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