『聖樹の下、今年は君と』
いつも通り浦原商店を訪ねると、見慣れぬ物が目に入った。
緑色のもみの木と、やたら大きな段ボール箱。
浦原に開けてもいいかと尋ね開いてみればその中にはガラス製のカラーボールに天使の人形・・・
他にもたくさんのきらびやかなクリスマスの飾りだった。
「この店もクリスマスの飾り付けするのか?」
俺はこの時期になるとどこの店も挙って始めるコンビニやデパートの
過剰なまでのクリスマスデコレーションを思い出した。
だがそれがこの純和風な店内に果たして似合うだろうか。想像してみたがどうもちぐはぐな感じだ。
「いやですねぇ違いますよ。それツリーの飾りだけですって。そこにあるでしょ?クリスマスツリー」
「これでかくねぇ?」
畳の上に横たえられているもみの木・・・クリスマスツリーはかなりの大きさがある。
やや細身ながらも高さだけなら俺の背丈くらいはありそうだ。
「えぇそうなんスよね。だから飾るのも面倒くさくって・・・クリスマスっていつでしたっけ?」
「25日だろ」
「ありゃもうすぐじゃないっスか!う〜んでも雨とジン太出掛けてるし・・・テッサイもっスねぇ」
「あー雨とジン太って・・・あいつらが飾りたがってんのか?」
あれ位の子供たちには有りがちなことだろう。しかしそれは違ったようで、浦原はアハハと苦笑いしていた。
「いや欲しがったのはあの子たちなんスけどね。飾るのは興味無いみたいで、私がやることになったんスよ。でもなぁ・・・」
「でも?」
「黒崎サン、これの飾り付け方わかります?」
「はぁ?」
「ったくなんで俺が・・・」
ブツブツ言いながらも段ボールからカラーボールを取り出してツリーに取り付けて・・・
そんなことをしている俺も大概しょうがないやつだと思う。
手を離すとツリーの枝に金具でぶら下げたボールが部屋の電燈の灯りを反射して赤く光りながらプランと揺れた。
「まぁまぁ、いいじゃないっスか。アタシこんなの飾るの初めてなんスから、教えてくださいよ」
俺にこんなことをさせている張本人の浦原は、
土台に固定したツリーを数メートル下がって眺め「よしここでいいっスね」なんて満足げだ。
運び込んだツリーはある意味・・・店内にはミスマッチだが暖かい風景と言えなくもない。
「しかし慣れた手つきスね。おウチでも飾るんでしょ?ツリー」
「あ、あぁまぁ・・・」
それどころじゃない。
クラッカー鳴らす、いつ作ったのか親父手製の輪飾りは飾られる、室内なのに電飾飾るで総力挙げてのクリスマスパーティーだ。
その上親父はサンタのコスチューム、妹たちには天使、俺には去年トナカイの格好までさせて。
毎年毎年大変な騒ぎになってしまう。
「しっかし大きいスねーこのツリー」
回想、というか嫌な思い出に思いを馳せていると横にはいつの間にか浦原がいて驚いて固まってしまった。
それでも良かったことがあるとすればそれを浦原に気づかれなかったことだろう。
俺とツリーの背丈を自分の手のひらで比べて、何が嬉しいのか「ほらー、これ黒崎サンより大っきいー」なんてニコニコしている。
「なんでこんな大きいの・・・」
「だからアタシこんなクリスマスなんてやったことないんですって。適当に注文したら思ったより大きいの届いちゃったんスよねー」
「ねぇの?クリスマス」
「はい、だって必要なかったですから。でも黒崎サンの妹さんに聞いたみたいでねー」
クリスマスは自分にとっては毎年ある、家族との食卓やプレゼントさえ当たり前のことで。
それが無いっていうのは淋しくないのだろうか?なんて考えていると、思いがけない名前が飛び出した。
俺の・・・妹?
「え、なんだそれ。俺の?」
「そー。黒崎サンの、妹さん。ユズちゃんとカリンちゃんでしたっけ?あの子たち、うちの子たちと仲良いんですよ」
で、数日前にいつも通り帰ってきたと思ったら「喜助さんうちにもクリスマスツリー・・・」「うちにはねぇのかよ」と。
どうやら妹たちにクリスマスのことを聞いたらしい。
「わりぃ・・・」
「いえ。それだけ黒崎サンちのクリスマスが楽しいってことでしょ」
アタシも黒崎サンとこんなことが出来て楽しい♪と笑う。
「楽しいかよ」
「えぇ、とっても」
今にも歌いだしそうだ。しかし、その表情がふっと曇る。
でもね、と続けながら浦原は段ボールから出した雪だるまの人形をツリーに吊るした。
「クリスマスイブもどうせ家族とパーティーでしょう」
「あ。ごめん・・・」
悪い気がして、俺はうつむいた。
そうだ、これでも自分達は恋人同士なんだ。俺だってそりゃ浦原と二人で過ごしたいと思わなくはない。
でもまだ家族にもバラしていないのに、クリスマスを一緒に過ごせないと言ったらそんなん恋人がいると公言しているようなものだ。
そしたら芋づる式に浦原のことだってばれてしまうかもしれない。
「何悲しそうな顔してんですか。一緒に過ごしたいと思える家族がいるなんて幸せなことっスよ」
「まぁ、それは・・・」
「アタシだってそこは我慢します。でも、夜くらいこっそり会いに行かせてくださいね」
そんな風にいつも、なんで俺の心をたった一言でこんなにも軽くしてくれるんだろう。
「ありがとう、な」
俺が笑うと浦原も笑う・・・珍しく、少し照れたように。ぎゅ、と頭を抱えるように抱きつかれた。
こんなことしてるとみんなが帰ってくるだろ、と言うと名残惜しそうに離れた浦原は
「ちぇー」なんて呟きながら再びダンボールから飾りを取り出す。
鼻歌で調子はずれなクリスマスソングなんて歌いながら。
・・・・・・俺はまた少し、クリスマスが楽しみになった。
end
05.12.24
聖なる夜にあなたといられるって、なんて幸せなんだろう!
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