死んでいるのかと  思った。









放課後コントラスト












校舎裏に転がる無数の動かない人たち、全員制服を着ている。この学校の生徒。
唯一立っているのは学ランの男だった。
でもあまりに有名な人物で、ああなるほど、と山本は妙に納得した。
近道なんかするんじゃなかったか、と内心思ったが顔には出ていない。
ゆっくりと歩み寄ると学ランの男は気怠げに振り返る。

「何」
「通りたいだけです」

学ランの男―雲雀は何事も無かったように山本を見る。
この足下の人たちの呻く声も、下手したら姿さえ見ていないのかと思う。それ位平然としていた。
呻いているということは死んでいないのか。学校で死人が出るのは何となく嫌だから良かった。
一方の雲雀は頬に飛んだ返り血を拭いながら山本を見ていた。
小さい草食動物とつるんでる男。
とりあえず思い出したのはそれだった。

「へぇ群れてないんだ」

今日は。
その嫌みのような苦みを含んだ言葉に山本は笑顔で返す。

「ははっもしそうだったらどうするんですか」
「咬み殺すよ」
「へえ」

遠くで  人の声が  聞こえた。
俺も目を開けたら死んでるんじゃないか?
目を開けているのにそう思うくらいのこの空間は俺とこの男、どちらが作ったんだろう。この男かもな。
学校という場に合わない、夜叉の目。ちっぽけな不良なんかとは殺気が違う。
今何分だろう。あんまり遅れると野球部始まっちまうかな。
意味も無く左肩に掛けたスポーツバッグを指先で叩く。山本がそうしている間も雲雀は山本から目を離さない。
戦う人間は相手から目を離さないと聞いたが、俺戦う相手だと認識されているのか?どうしたもんかな。
怖くはないけど、俺が怪我しても怪我させても、誰相手だろうとあいつら怒るだろうからなぁ。俺に危険でも迫らない限り。いや、怒るというより心配するかな。

「あ、そうだ」

山本はふと思いついてスポーツバッグを探る。
ユニフォームや練習メニューより比較的上の方にそれは乗っかっていた。今日買ったやつだから当然か。

「やるよ」

山本が差し出したそれを雲雀は訝しく見た。

「何それ」
「牛乳」

山本が差し出したのは、手のひらサイズのパック飲料だった。パッケージには牧場と牛のイラスト。
未開封のそれを山本はにかっと笑って突き出す。

「カルシウム足りてないんだろ?」

部活終わってから飲もうと思ってたけど、また買うからいいや。
受け取らない雲雀に手を出させそれを握らせる。生温いけどなんとか飲めるだろう。
白いパックを握る手の甲には乾きかけた血が広がっていて、変なコントラストみたいだった。
そっか、血が見えるのにこいつが全然痛そうじゃないのも変なんだ。当然か、こいつは血なんか流してない。


「じゃ俺行くな」

スポーツバッグを背負い直して歩いて行く妙な男を雲雀は黙って見ていた。
伸びをして、用でもあるのか思い出したかのように駆け足。
足下の群れていた奴らは勝手に起きるか、風紀委員が始末を付けるだろう。
トンファーを片手に纏め持つ。もう片方の手の中で液体が揺れた。パック越しに感じる液体の感
触。人肌程の温度になっているのか、冷たくも熱くもない。

「・・・変なの」

歩き出すと眠くもないのに欠伸が出た。屋上の風景が浮かんで、今日もそこに行こうと思った。
雲雀は校舎内に入り階段に向かう。人の疎らな放課後の学校はいつもと同じものだ。
遠くから部活動の声が聞こえる。

「っしゃぁ初回ホームラン!」

何の気無しに振り返った開け放した廊下の窓の向こう、校庭で野球部のユニフォームの男が笑顔でガッツポーズをしていた。





血に塗れた煩わしい世界

壊れて踊るように全てを壊す

誰も入らせない赤い世界



・・・突然の来訪者





End

08.4.22


変わっていったのはどっち? 世界と僕と




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