ふるえて






声は音。



音は空気の振動、音波として伝わり聴覚器官によって感受される。



ならばこの声も届くだろうか。



キミの声がオレを捉えたように。



抗い難い響きを持って。















そんなことを考えながら単調にキーボードを叩く。


『隣の客はよく柿食う客だー』


音声合成ソフトによってパソコンのスピーカーから声が発せられる。
部室には今自分しかいない。ならばスケット団本日休業、なのかと言えばそういうわけではない。
現在も依頼遂行の真っ最中だ。行動派のボッスンとヒメコは恐らくこの瞬間も校内を走り回っているだろう。
今日のオレの役割は情報収集だった。
しかしそれもとりあえずのノルマは達成し、ボッスンの携帯からの連絡による指示を待っている。それからでないと動きようが無い状態だ。
あまりに暇だったので音声合成ソフトの設定をいじったり、オプションを調整している。ある程度遊んだ後試しに音声を出した。結構いい調子だ。


『ボッスン』


何気なく打ち込んだ名前。
静かな部室で声はすぐ静寂に吸い込まれた。部室棟自体に人が少ないのかもしれない。


キーボードで簡単に打ち込める声。
微調整を念入りに行った音声にイントネーションなどの狂いは無い。
ただこの声がオレの本当の声と同じ声質なのかどうかは敢えて言わぬが。



『ボッスン』




名前を呼んでまずは笑顔が浮かんだ。優しい笑い方。


次に熱く叫ぶ姿。凛々しい表情。


キーボードで声を出すのは簡単だ。口を開く必要も喉から声を絞り出す必要も無い。

 
躊躇いで言葉が出てこなくなることもない。とてもとても、簡単。


操作をやめて耳を澄まし人が近付いてくる気配が無いことを確かめた。足音一つしない。




『ボッスン・・・』



未練がましくもう一度入力した。


切なさを含まない平凡さを持った音がする。





『好き だ 』




鼓膜が震える。この作り物の声が耳に届いた証拠。


ボッスンはいない。


だがこの独り言を聞かれていたらどうしたらいいのだろう。


まだ気持ちを言いたくは無いのに。まだ仲間でいたいから。横に立っていたいから。





『もうどうしようもないくらいに』



虚しい。        会いたい。




声が聞きたいと思った。呼びかけられて、あだ名でいい、名前で呼ばれたい。





我ながら、少し恥ずかしいことを考えてしまった。











終わり





08.1.22 加筆修正 08.3.4




今はまだただ傍に。  “いつか“なんて今はいらない。







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