この光景は・・・どうしたものでしょう?
僕は半ば呆然と、レンタルビデオ店の店内でカゴを片手に立ち尽くしていた。
念の為に言っておきますが初めて訪れた大型店が普段利用している近所の店より遥かに大きな規模だということに驚いているわけではない。
それは、面積どころか映画の種類も豊富そうで非常に興味をそそられますが。
僕が驚いているのはもっと別の理由だ。
「これ見逃したのよね」
「あらこれも面白そうじゃない?」
楽しそうに棚と棚の間を、僕の上司とも言える女性があちらこちらへ歩き回っている。
僕にとってこれは、対応が取れなくなるくらいの状況だった。
今夜は恋愛映画の日
次から次へと放り込まれカゴには結構な数のDVDが積み重なっている。
まさかとは思いますが、これを僕に全部見ろというわけではないですよね?確認しておいた方がいいでしょうか。
僕は真昼よりも眩しい店内で常連らしい彼女の後を付いて行くだけ。
せいぜい見覚えのあるタイトルに足を止めるくらいで。
「何かいいものあった?」
「え?いえ、そういうわけでは」
なんとなくポスターを眺めていて、すぐ横からした声に驚いて彼女に目を向けた。・・・また手にDVDを持っている。
今の彼女。機関仕様とも言えるスーツに身を包んだ森さんは僕には見慣れたものだ。
(それこそ夏休みのメイド服の方がイレギュラーである。)
が、目をキラキラさせて両手いっぱいにDVDを抱えている森さんなんて、見る予定も無かったプライベートに踏み込んでしまったようで落ち着かない。
「いくつ借りるんですか」
「ほとんど私のだから安心して。たまにまとめ借りして一人で一気に見ているの」
今までに聞いたことのなかった趣味への少々の関心。「今夜全て見るわけじゃない」と取れる言葉にほっと息をつく。
しかしカゴの中から取り出した一つのケースを有無を言わさず押し付けられた。
「でもこれは今夜見るのよ」
そして彼女はまた隣の棚へ消える。僕は苦笑しつつ渡された映画に目を落とした。
パッケージは幸せそうに笑う恋人たち。どこかの国の恋愛映画のようだった。
彼女の意図を知っているだけに複雑な心境だ。
・・・端から見ている分には、片思いなんて幸せなものだと思っていたのです。
恋をしているという事実に浮かれ、ただそれに夢中になるだなんて、気楽なものでしょうと。
実際に体験してみると、僕の場合恋とは只々辛いものでした。
ふとした幸せは喜びよりもやりきれない切なさを運んでくる。
溢れそうな思いに口から言葉が出そうで、話す度に顔がきつく強張って。
他の方と話をするあの人を目にし、嫉妬などしてしまった時には情けなさの嵐でした。
僕はなんて愚かなんだろう。 どうしてこんなにあの人を愛しく思うんだろう。
不毛な片思い。
こんなに悲しくて辛いのに、彼を目にする度、僕は彼の幸せを祈るような気持ちになるのです。
大好きな 大好きな人。
どうか幸せになって。ずっと笑顔でいて下さい。
その笑顔を絶やさない毎日を送って下さい。
未来の彼を思い浮かべてもその横に僕がいることは無い。
僕の夢想する大人びた彼の横には可憐な柔らかいシルエットがある。
それが誰かなんてことを考えられる程、僕はまだ強くないけれど。
この思いもいつか消えて。彼の本当の友人になれるだろうか。
そんなことを考えながら。 また 彼を見つめてしまう日々でした。
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09.1.25
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