今日も覚めない現の日々
  

−1−








この怖さの理由も
今は まだ





ぼんやりとしていたのは昨日の宿題による寝不足のせいではない。ましてやこの季節にしては暖かい気温のせいでもなかった。
思考を散らしていなければどうしても口を開いてしまいそうだったからだ。
顔は上げず視線だけ上げるが、目の前の男は気付いていない。オセロ盤を眺め摘まみ上げた白を置く。
ぱたりとその隣の黒を裏返す。黒から白へ。
「どうぞ」
促された俺は同じように黒を持ち、考えていた場所にそれを置いた。続いてその隣の白を引っくり返す。次に隣。更に隣。
「そこに置かれてしまいましたか」
「狙っていたからな」
困りましたね、と眉根を寄せて笑う古泉。その困り顔に一瞬、別の顔が重なった。
目を伏せ盤上に視線を戻す。噛み締めた奥歯が痛んだ。古泉の妙に白い指が白い持ち駒をボードの端に置く。
狙いすましたかのように二人になってしまったこの部室で続いているオセロに俺は妙な気まずさを感じている真っ最中だった。
早くこのゲームが終わらないだろうか。そんなこと思いながら続けるのも悪い気がするのだが、その上何故か俺はそれを目の前の男に言い出すことが出来ないでいた。
夕暮れに近付く日が眩しい。眩しすぎて言ってはいけないことを言ってしまいそうになる。
そんな俺の気も知らず、古泉は長考しながら駒を指で弄んでいる。いつもと同じ様子。それなのに。


・・・駄目だ、頭から離れなくなった。
古泉の顔に重なったのは古泉であって、古泉ではない表情。
古泉と同じ名前で、ひょっとしたら同じ存在なのかもしれない、12月の終わりに俺が奔走した世界の“古泉一樹”。
よく知った古泉と同じ作ったかのような笑顔、それは完全な仮面と言うよりは不完全なマスク。
感情を隠す必要はない、でも恐らく作り笑いが癖なんだろうってくらいの。
時折見え隠れした俺への警戒心と敵意を今更思い出す何故今になって?。あの時は俺も必死でそこまで気に留めなかったんだろう、きっと。
今でも時折あの数日間を思い出す時がある。もちろんあの古泉のことだけじゃないさ、
それにあの世界とこの世界を比較しているわけではない。未練や後悔があるわけでもない。
時折ふっと思い出すのだ。他の日々の出来事と同じように。
けどある日・・・特にきっかけもない、只なんとなく思ってしまったんだ。


あれが本当のこいつだったとしたら?
ハルヒは神じゃなくて、機関なんて物も無くて。古泉は超能力者でもなんでもなかったら?
古泉の状況は変わっていたかもしれない。生活だって今のこの生活と違う。
機関の意向に添ってハルヒの望む人間を演じる必要も無い、そんな人生だったら?

あれが偽りも何も無いこいつだったら?

(いや普段の古泉が偽物だとか言いたいわけじゃない、ましてやずっと嘘をついているとも思いたくないだけど)



「あなたの番ですよ?」
「・・・ああ」


その考えに囚われる度に俺はわからなくなる。
悲しいのか悔しいのかそれとも他の気持ちなのか。
俺だってこいつをもう欠けてはいけない仲間だと思っているのに。
くだらない想像。嫌な考えだ。消し去りたいのにここ数日頭から消えてくれやしない。
「ほらよ」
手に取ったオセロの感触をいやに固く感じたのはきっと気のせいで、でも、視線は展開する戦況に向けたまま白を黒に返す。
古泉の顔をまっすぐ見れやしなかった。







本当は古泉に嫌われているとしたら?




















08.5.20
加筆修正5.21


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